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自信がないあなたも大丈夫!ビジネス交渉で複数の条件をまとめる基本

Tags: 交渉術, ビジネス交渉, 条件交渉, 営業スキル, 初心者向け

ビジネス交渉の場では、一つの条件だけではなく、価格、納期、支払い方法、保守内容など、複数の論点が同時にテーブルに並ぶことが少なくありません。特に経験がまだ浅い方や、交渉にあまり自信がないという方にとって、複数の条件が絡み合う交渉は、どこから手をつけて良いか分からなくなり、混乱しやすいと感じるかもしれません。

しかし、複数の論点がある交渉も、基本となる考え方とステップを押さえれば、落ち着いて、そして自信を持って進めることが可能です。この考え方は、複雑に見える交渉をシンプルに捉え直し、あなた自身の強みを活かすことにも繋がります。

この記事では、ビジネス交渉で複数の条件を効果的にまとめるための基本的な考え方と具体的なステップについて解説します。この記事を読めば、たとえ複数の論点が絡む難しい交渉であっても、どのように準備し、どのように進めれば良いかの道筋が見えてくるはずです。

複数の論点が絡む交渉の難しさと、なぜ整理が必要なのか

ビジネス交渉において、価格だけ、あるいは納期だけを話し合うというケースは比較的シンプルです。しかし、複数の条件が同時に検討される場合、それぞれの条件が互いに関連していることが多く、一つの条件を変更すると他の条件にも影響が出る可能性があります。

例えば、価格を少し下げる代わりに、納期を調整したり、支払い条件を変更したり、保守サービスの内容を見直したり、といったように、条件は一つではなく、いくつかの要素が組み合わさって全体としての合意が形成されます。

このような状況で、事前に論点を整理しておかないと、

といった事態に陥るリスクが高まります。

自信を持って交渉を進めるためには、まず「何を交渉するのか」という論点を明確にし、それらをどのように扱うかを事前に戦略として立てておくことが非常に重要になるのです。

ステップ1:交渉前にすべての論点をリストアップする

交渉に臨む前に、まず今回の交渉で話し合う可能性のあるすべての論点を漏れなくリストアップすることから始めましょう。これは、あなたが提案したい条件だけでなく、相手から提示される可能性のある条件や、過去のやり取りから予想される懸念事項なども含めて考えます。

例えば、あなたがITソリューションを販売する営業担当者だとします。顧客との交渉では、単に製品・サービスの「価格」だけでなく、以下のような複数の論点が考えられます。

これらの論点を一つずつ書き出してみましょう。書き出すことで、交渉全体の範囲を明確に把握できます。

さらに、それぞれの論点について、自分(自社)にとっての重要度、優先順位、そして他の論点との関連性(例:「納期を早めるなら価格は下げられない」など)を整理しておくと、後のステップで役立ちます。

ステップ2:各論点での自身の希望と譲歩範囲を決める

リストアップした各論点について、あなたが目指す「最終的な希望条件」と、受け入れ可能な「最低ラインの条件」(譲歩の限界点)を具体的に設定します。

この範囲を明確にすることで、交渉中に相手から提示された条件が、自分の許容範囲内にあるのかどうかを即座に判断できるようになります。特に複数の論点がある場合、それぞれの最低ラインを合計したものが、交渉全体での最低ラインを下回らないように注意が必要です。

また、この段階で、もし交渉が合意に至らなかった場合の代替案(BATNA - Best Alternative To Negotiated Agreement)についても考えておきましょう。BATNAが明確であれば、無理に不利な条件を受け入れる必要がなくなり、より自信を持って交渉に臨むことができます。

ステップ3:相手も論点を整理できるよう工夫する

あなたが論点を整理するだけでなく、相手も交渉の論点が明確になっている方が、スムーズな合意形成に繋がりやすくなります。交渉の冒頭で、今回の交渉で話し合いたい論点を提示し、相手との間で「今日の話し合いの範囲」について共通認識を持つことを提案するのも有効な方法です。

例えば、以下のように切り出すことができます。

「本日は〇〇(製品名など)のご契約条件についてお話しさせていただければと存じます。弊社としては、主に『価格』と『納期』、そして『保守内容』についてすり合わせさせていただければと考えておりますが、お客様の方で他に特に確認されたい論点はございますでしょうか? もしよろしければ、本日のアジェンダとして、これらの項目に沿って進めてまいりますが、いかがでしょうか?」

このように事前にアジェンダを共有することで、論点が整理され、話が脱線しにくくなります。相手から新しい論点が出てきた場合は、それもリストに加え、全体のバランスを見ながら話し合いを進めましょう。

ステップ4:論点を一つずつ、あるいは関連付けて扱う

複数の論点を一度にまとめて議論しようとすると、混乱しやすくなります。基本的には、一つまたは関連性の高い複数の論点に絞って話し合いを進めるのがおすすめです。

例えば、「価格」と「保守内容」のように、ある程度独立している論点であれば、それぞれを個別に話し合い、一つずつ合意を積み重ねていく方法があります。

一方、「価格」と「納期」のように密接に関連している論点の場合は、「価格」と「納期」をセットで考える必要があります。「価格を〇〇円にしていただけるなら、納期は△△までお待ちいただくことは可能でしょうか?」といったように、論点間の関連性を意識し、条件を交換材料として活用します。

重要なのは、合意できた論点とまだ合意に至っていない論点を常に明確にしておくことです。議事録を取る、ホワイトボードに書き出すなど、目に見える形で進捗を管理すると良いでしょう。

NG例: 「ええと、価格のお話は今ここまでですが、ええっと、納期もですよね? あと保守もですね…それで、全体でどうなるかというと…」のように、複数の論点をまとめて扱おうとして話が混乱する。

OK例: 「価格については、〇〇円で一旦合意とさせていただけますでしょうか? ありがとうございます。では次に、関連する論点として納期についてお話しさせていただけますでしょうか。」のように、一つずつ区切りながら進める。

ステップ5:合意した論点を明確に確認・記録する

交渉が進み、特定の論点について合意が得られたら、その内容をその場で明確に確認し、記録に残すことが非常に重要です。

例えば、価格について合意した場合、単に「分かりました」と言うだけでなく、「では、価格については税抜き〇〇円で、本日合意とさせていただけますでしょうか。支払いサイトは通常通り△△日でよろしいでしょうか?」のように、具体的な数値や条件を含めて復唱・確認します。

そして、合意した内容は議事録に記録するか、その場で簡単なメモを作成して相手と共有することで、「言った」「言わない」の誤解を防ぎ、後々のトラブルを回避できます。

複数の論点がある交渉では、全ての論点について合意に至るまで時間がかかることもあります。その間に、一度合意したはずの論点が曖昧にならないように、節目ごとに確認を行うと良いでしょう。

まとめ:複数の論点も、一つずつ整理すれば怖くない

ビジネス交渉で複数の論点が提示されるのは、決して特別なことではありません。むしろ、お互いの希望や条件を最大限に満たすために、様々な要素を調整していくプロセスそのものです。

「自信がない」と感じるかもしれませんが、今日ご紹介した

  1. 交渉前にすべての論点をリストアップする
  2. 各論点での自身の希望と譲歩範囲を決める
  3. 相手も論点を整理できるよう工夫する
  4. 論点を一つずつ、あるいは関連付けて扱う
  5. 合意した論点を明確に確認・記録する

という5つのステップを意識するだけで、交渉の全体像を把握し、論点を整理しながら落ち着いて進めることができるようになります。

最初は完璧にできなくても構いません。まずは、次の交渉で扱う可能性のある論点を書き出してみるところから始めてみてください。一つずつ論点を整理し、準備を進めることで、「何を話せば良いのか」が明確になり、自然と自信もついてくるはずです。

複数の条件が絡む交渉も、適切に準備し、一つずつ丁寧に進めれば、決して難しいものではありません。この記事が、あなたの今後のビジネス交渉の一助となれば幸いです。